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大分地方裁判所 昭和43年(ワ)80号 判決 1971年3月31日

原告

清原幸男

ほか二名

被告

国東町

ほか二名

主文

被告国東町、同田口栄造、同中野友幸は各自原告清原幸男、同清原カズ子に対し各金一、七〇七、二七八円およびこれらに対する昭和四〇年六月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告国東町、同田口栄造は各自原告中野松雄に対し金二、六〇四、九七八円およびこれに対する昭和四〇年六月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用中原告中野松雄において支出した分は、被告国東町、同田口栄造の、原告清原幸男、同清原カズ子において支出した分は被告ら三名の各連帯負担とし、その余は被告ら三名の負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り原告清原幸男、同清原カズ子において被告ら各人に対し各金三〇〇、〇〇〇円、同中野松雄において被告国東町、同田口栄造に対し各金五〇〇、〇〇〇円の担保を供したときは仮に執行することができる。

事実

(申立)

一、原告清原幸男および同清原カズ子

被告国東町、同田口、同中野は各自右原告両名に対し各金二、七四一、四七九円およびこれらに対する昭和四〇年六月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに第一項について仮執行の宣言を求める。

二、原告中野松雄

被告国東町、同田口は各自右原告に対し金七、二六一、二一三円およびこれに対する昭和四〇年六月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに第一項について仮執行の宣言を求める。

三、被告ら三名

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

(主張)

一、請求原因

1  事故の発生

昭和四〇年六月一七日午後七時四〇分ごろ、大分県東国東郡国東町大字重藤三五五番地大塚亘義方前庭において、突然後進してきたバン型普通自動車(登録番号大分四た七四八号)(以下単に加害車という。)により、訴外亡清原松三は頭部を同車後輪で轢過され、そのため、頭蓋骨骨折、脳内出血の傷害を負つて間もなく死亡し、原告中野は右大塚方表八畳の間上り口に腰かけていたところを、後進してきた加害車後部バンバーで左足膝部付近を右八畳の間敷居に強く押しつけられたため、加療約三年間を要する左大腿骨開放骨折、左膝窩部挫滅創、左膝窩動脈切断の傷害を負つた。

2  帰責事由

(一) 被告中野の過失

被告中野は、本件事故発生の日、火葬場から加害車に遺骨を載せて午後七時一〇分ごろ前記大塚方に帰り着き、加害車を右大塚方前庭に、前輪を右前庭先道路に掛け、後輪を前庭内に置く格好で、ギアをバックに入れた状態で駐車させた際、加害車のエンジンキーは付けたままにし、サイドブレーキも引かず、かつ運転台ドアの施錠もしないままに放置した過失がある。そのため、右大塚方の葬儀に参列していた運転技術をもたない訴外中野泰芳が加害車の運転台に乗車し、ハンドルを動かす等していたところを、同じく葬儀に参列していた者で、自動車の構造、運転技術に関する知識の浅薄な訴外岩崎久が好奇心から運転席右側の窓から手を差し入れ、エンジンキーを回転させてエンジン始動位置に置いたため、エンジンが始動して加害車は後方にゆつくりと進行し始め、周章狼狽した右中野がブレーキのつもりでアクセルを踏み込んでしまつたため、さらに加速して後進した結果、本件事故が発生した。

よつて被告中野は民法七〇九条により原告清原幸男、カズ子両名に生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告国東町および同田口の運行供用者責任

加害車は、被告町が、町民死亡の場合に、遺族の依頼を受けてその死体や遺骨を運搬する目的で購入したもので、被告町の所有に属する。被告町は、かねてから、右運搬業務を被告田口に委託するとともに、被告田口が右運搬業務に加害車を必要とする都度、同車を同人に貸与していた。そこで被告田口は、もつぱら加害車を使用して右業務を行つていた。そして、本件事故は、被告田口が加害車を使用し、被告中野をして右業務に従事させている間に起つたのであるから、被告町、同田口は加害車を自己のため運行の用に供していた者として原告ら三名の後記損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 原告清原幸男、カズ子両名

(1) 亡松三の逸失利益

亡松三は、昭和三八年五月二二日生れの健康な男子であつて、本件事故により死亡しなければ、今後順調に成長し、少くとも満二〇才に達したときから以後四〇年間にわたつて、昭和四三年における全労働者の平均賃金一ケ月金四三、二〇〇円程度の収益をあげることができ、この収益をあげるのに要する生活費は収益の五割を越えることはなかつたはずである。そこで、右亡松三の逸失利益を民法所定年五分の利率によりホフマン式計算法にしたがつて現価に換算すると、金三、六九二、九五八円となる。

(2) 右原告両名による亡松三の逸失利益の相続

右原告両名は、亡松三の父および母であるから、松三の死亡により右損害賠償請求権を各二分の一である金一、八四六、四七九円あて相続により取得した。

(3) 右原告両名の慰藉料

亡松三は右原告両名の一人息子であつた。右原告両名は、住居地で衣料品商を営みながら、松三の成長を最大の楽しみにしていたのに、突如本件事故により幼い松三の命を断たれ、その衝撃、悲嘆は筆舌に尽くしがたく、これを償うべき慰藉料は各金一、五〇〇、〇〇〇円が相当である。

(二) 原告中野松雄

(1) 治療費

原告中野は、前記傷害治療のため別府市内所在の黒木病院に入、通院し、治療費として金一一、二一三円を支払つた。

(2) 逸失利益

原告中野は、事故当時身体に何らの障害のない満四二才の健康な男子で、今後二一年間は稼働しえたはずであるのに、本件事故による傷害に起因する左足膝関節硬直等の後遺障害(身体障害者等級表による級別四級)のため、事故前の労働能力の一〇〇分の九二を喪失し、これは一生回復する見込がない。

原告中野は、本件事故当時、農業を営むかたわら商店に勤務し、一年間に、農業によつて、金四〇〇、〇〇〇円、商店勤務によつて金一四四、〇〇〇円、合計金五四四、〇〇〇円を下らない所得があつたが、本件事故に起因する後遺障害によつて、前記のように労働能力の大部分を喪失したから、今後二一年間は前記所得金額の一〇〇分の八程度の所得しかあげられないものと考えられる。

そこで、その逸失利益を民法所定年五分の利率によりホフマン式計算法にしたがつて現価に換算すると、金七、六七二、四六七円となるが、そのうち金五、〇〇〇、〇〇〇円の支払を求める。

(3) 慰藉料

原告中野は、今だに前記傷害が完治せず、前記労働能力の喪失も永続する。このような苦痛を慰藉するには金三、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

4  要約

(一) 原告清原幸男、カズ子両名は、本件事故により各自、前記各金額を合計した金三、三四六、四七九円の損害を被つたことになるが、既に自賠法による保険金金一、〇〇〇、〇〇〇円、前記訴外岩崎および中野泰芳から金二一〇、〇〇〇円の支払を受け、これを原告らで等分した。

よつて、右原告両名は、被告国東町、同田口、同中野に対し、各自、右損害額から右支払を受けた金額を控除した金二、七四一、四七九円およびこれに対する弁済期後である本件事故発生の翌日、昭和四〇年六月一八日から支払済まで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める。

(二) 原告中野は、本件事故により、前記各金額を合計した金八、〇一一、二一三円の支払を受けるべきところ、前記訴外岩崎から金三三〇、〇〇〇円、訴外中野泰芳から金四二〇、〇〇〇円、合計金七五〇、〇〇〇円を受領した。

よつて、原告中野は、被告国東町、同田口に対し、右損害額から右支払を受けた金額を控除した金七、二六一、二一三円およびこれに対する弁済期後である本件事故発生の翌日、昭和四〇年六月一八日から支払済まで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める。

二、請求原因に対する被告らの認否、反対主張および抗弁

1  被告ら三名

(一) 請求原因1(事故の発生)については、原告主張の日時に松三が死亡した事実は認めるが、その余の事実は争う。

(二) 請求原因2(帰責事由)については、被告中野が原告主張の場所に加害車を駐車させた事実、同車が国東町所有である事実は認めるが、その余の事実はすべて争う。

仮に、請求原因2(帰責事由)の事実が認められるとしても、右によれば、本件事故は、もつぱら訴外岩崎および中野泰芳のいたずらによつて惹起されたものであつて、被告中野の過失と本件事故との間には因果関係がなく、また、本件事故当時、被告国東町および同田口は、右訴外人らの行為によつて加害車の運行支配および運行利益を喪失していたから、被告らには賠償責任はない。

(三) 請求原因3(損害)については、すべてこれを争う。

2  被告国東町および同田口

本件事故の発生について、右被告両名および運転者である被告中野には何らの過失はなく、仮に被告中野に過失があつたとしても、原告ら主張の本件事故発生の経緯に徴すると、右過失は本件事故発生との間に因果関係がないところ、他方において、本件事故はもつぱら訴外岩崎および中野泰芳の過失によつて引き起されたものであり、また、加害車には構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたから、被告らは自賠法三条但書により免責を受けるべきである。

3  被告田口

本件事故は、被告田口が死体等運搬業を実弟田口幸生に譲つた後の出来事であるから、被告田口は本件事故とは全く関係がない。

三、被告らの反対主張および抗弁に対する原告ら三名の認否

被告中野の過失と本件事故との間に因果関係がないとの主張、被告国東町および同田口が本件事故当時加害車の運行支配および運行利益を喪失していたとの主張ならびに自賠法三条但書の免責事由の主張はいずれも争う。

(証拠)〔略〕

理由

一、事故の発生について

訴外清原松三が死亡した事実については当事者間で争いがなく、〔証拠略〕によれば、その余の事実を認めるに十分である。

二、帰責事由について

1  被告中野の過失について

同被告が加害車を大塚方前庭に駐車させたことは当事者間で争いがなく、本件全証拠によるも、被告中野が加害車を駐車させる際同車のサイドブレーキを引かなかつた事実についてはこれを認めることができないが、〔証拠略〕によれば、その余の原告ら主張の事実は優にこれを認めることができる。

なお、被告中野らは、被告中野がエンジンキーを点火装置に差し込んだまま、運転席のドアに施錠することもなく加害車を放置したことと、本件事故の発生との間には相当因果関係がない旨主張するが、右主張は以下に述べる理由により失当である。

〔証拠略〕によれば、当日、大塚方では葬式があり、そのため、本件事故発生のころまで、同家には一〇数人もの人達が集まり、飲酒等していた事実が認められる。そうすると、右のような状況のもとで、右大塚方前庭に加害車を駐車させた際、エンジンキーを点火装置に差し込んだまま、運転席のドアの施錠もしないでおくときは、酔漢等によつて加害車にいたずらされたり、あるいは、これを運転されたりすることもあるべく、その他何らかの事由により不測の事故が発生する恐れが多分に存したと考えられるから、被告中野としては、加害車を離れる際、エンジンキーを点火装置からはずして携帯し、あるいは、運転席のドアに施錠する等の処置をとつて、事故の発生を未然に防止するべき自動車保管上の注意義務があつたというべきである。そうすると、前認定のとおり、被告中野が右注意義務に反した結果、前認定の経過で本件事故が発生したのであるから、被告中野の加害車管理上の過失と本件事故との間には相当因果関係があるというべきである。

よつて、被告中野は、民法七〇九条により、原告清原幸男、カズ子両名に生じた後記損害を賠償すべき責任がある。

2  被告国東町および被告田口の運行供用者責任について

加害車が被告町の所有であることは当事者間で争いがなく、〔証拠略〕を総合すれば、その余の原告ら主張の事実を認めることができ、本件事故当時、遺体等の運搬業に従事していたのは被告田口ではなく、同被告の実弟訴外田口幸生であつた旨の〔証拠略〕は、前掲各証拠および当事者弁論の経過に照らして信用できない。さらに、〔証拠略〕によれば、被告町は、加害車を保管するために車庫を設けていたこと、同車の鍵は町役場で保管し、被告田口は、死体運搬の都度、鍵と同車を借り出し、作業終了後はそれらを被告町に返還すべきものとされていたこと、同車の燃料費、維持費は被告町が負担していたこと、被告田口は死体一体を運搬するごとに被告町から金五〇〇円の支払を受け、これとは別に、火葬場管理および死体運送受託料として被告町から月々六、〇〇〇円の支払を受けていたことが認められる。そこで、以上の事実関係のもとでは、加害車に対する運行支配および運行利益は、被告町および被告田口の双方にあるというべきであるから両被告はいずれも自賠法三条の運行供用者責任を負うべきである。

右被告両名は、前記本件事故発生の経過に徴すると、本件事故当時、被告らは、訴外岩崎久、同中野泰芳によつて、被告らの加害車に対する運行支配および運行利益を排除されていたとみるべきであると主張する。しかし、前認定の、本件事故時における被告田口の雇人である被告中野による加害車駐車管理の態様、本件事故は、被告中野が加害車を駐車してからそれほど間のない三〇分ぐらい後に、同車の駐車した同一庭内で、かつ、自動車を運転する技術を持たない者達のいたずらによつて惹起されたという事情のもとでは、未だ、加害車に対する被告町および同田口の運行支配は及んでいたと認めるべきであるから、右訴外人らの行為によつて右運行支配が喪失させられていたとの被告らの主張は理由がない。

よつて、被告町および同田口は、その余の被告ら主張の抗弁事実について判断するまでもなく、自賠法三条により、原告ら三名に生じた後記損害を賠償すべき責任がある。

三、損害について

1  原告清原幸男、カズ子両名

(一)  亡松三の逸失利益

〔証拠略〕によれば、亡松三は昭和三八年五月二二日生れの健康な男子であつたことが認められるから、松三は、本件事故により死亡しなければ、今後順調に成長し、少くとも、満二〇才に達したときから、企業規模一〇人ないし二九人程度の事業所には勤務しえて、以後六〇才になるまでの四〇年間、右規模の事業所における男子労働者の平均賃金を獲得することができ、右全労働期間を通じ、松三が収入を得るに必要な生活費の支出割合は全収入の五割を越えないとみるのが相当である。

ところで、労働大臣官房労働統計調査部賃金統計課「賃金構造基本統計調査結果報告」(甲第二号証の一)によると、昭和四〇年における右規模の事業所での男子労働者の平均月間きまつて支給を受ける賃金の額は金三〇、七〇〇円であるから、亡松三の平均月間逸失利益は金一五、三五〇円、年間逸失利益は金一八四、二〇〇円となる。この金額を基礎にしてホフマン式計算法(複式、年別)により年五分の中間利息を控除し、死亡時の現価を算出すると、金二、六二四、五五五・二円となるので亡松三は本件事故により右と同額の損害を蒙つたというべきである。

(二)  原告清原幸男、カズ子両名による亡松三の逸失利益の相続

〔証拠略〕によれば、原告両名が亡松三の父母であることは明らかであるから、右原告両名は松三の死亡により前記亡松三の損害賠償請求権を相続により平等の割合で取得したことになる。したがつて、右原告両名による亡松三の逸失利益の請求は各金一、三一二、二七八円(円未満四拾五入)の限度で相当であり、右金額を越える部分は失当である。

(三)  原告清原幸男、カズ子両名の慰藉料

前認定の本件事故の態様、亡松三と右原告両名との身分関係、その他、本件証拠によつて認められる一切の事情を参酌すれば、右原告両名の本件事故による精神的苦痛を慰藉すべき金額は、各金一、〇〇〇、〇〇〇円とするのが相当である。

したがつて、右原告両名の慰藉料請求は右の限度で相当であり、右金額を越える部分は失当である。

2  原告中野

(一)  治療費

〔証拠略〕によれば、同原告は、昭和四三年一〇月ごろから昭和四四年二月ごろまでの間に、別府市内所在の黒木外科病院に対し、本件事故によつて負傷した左足の治療費として金一一、二〇〇円を支払つたことが認められ、その余の金額については本件全証拠によるもこれを認めるにたりない。

(二)  逸失利益

(1) 〔証拠略〕を総合すると、本件事故当時、原告中野は、間もなく満四二才になる身体に何らの障害のない健康な男子であり、妻三千代と共に田六反余、畑二反余で水稲、七島藺、麦等を作り、みかん山約四反五畝を管理して、年間金四〇〇、〇〇〇円を下らない農業粗収入を得ていたこと、右農業粗収入を上げるために要する経費は、右粗収入金額の二割を上まわることはなく、右粗収入に対する原告中野の寄与率は七割を下らなかつたことが認められるから本件事故当時、原告中野は、農業によつて年間金二二四、〇〇〇円を下らない純益を上げていたことになる。

また、右各証拠によれば、原告中野は、農業を営むかたわら、農閑期を利用して同じ町内の電気器具商に勤務して主に集金業務を担当し、年間少くとも金八〇、〇〇〇円を下らない収入を得ていたことを認めることができる。

そうすると、本件事故当時、原告中野は、年間金三〇四、〇〇〇円を下らない収入を得ており、本件事故がなかつたならば、六三才になるまで、今後二一年間は稼働し得て、毎年右金額を下らない農業収入およびこれを補うアルバイト収入を上げえたものと認めるのが相当である。

(2) 〔証拠略〕によれば、原告中野は、本件事故によつて負つた傷害に基因する左足関節硬直等の後遺障害(身体障害者等級表による級別四級)のため、左足はほとんど用をなさず、そのため、腰を掛けて事務を執る程度以上の仕事をすることは困難であること、それでも、昭和四三年一〇月から事務員として勤めに出ることにはしたものの、勤務に就くと患部の安静が保てないため、患部の状態が悪化することがしばしばで、結局、一ヶ月のうち二〇日間程度しか稼働することができず、さらに、昭和四四年一一月中頃から昭和四五年三月までは腐骨摘出手術のため入院を余儀なくされたこと、しかも、まだ今後何回か腐骨摘出手術等のため入院しなければならなくなることが確実であること、

現在、中野は、従業員一〇数名の小規模な酒造会社に勤めて月々金一八、〇〇〇円程度の収入を得ているが、これは、右会社の特別の好意による臨時的待遇であることが認められる。してみると、現在、原告中野が得ている右収入金額程度の収入を今後とも上げうるものとみるのは相当でなく、したがつて、右収入金額をもつて、直ちに原告中野の受傷後の収入金額算定の基礎とすることはできない。そこで、右認定の諸事情その他諸般の事情を総合考慮すると、原告中野の事故後における収入金額は、事故前の収入年間三〇四、〇〇〇円の五割と認めるのが相当である。

(3) そうすると、原告中野の逸失利益をホフマン式計算法(年別、複式)により、年五分の中間利息を控除して受傷時の現価を算出すると、金二、一四三、七七八円(円未満四捨五入)となるから、原告中野は右と同額の損害を蒙つたものというべきである。

したがつて、原告中野の逸失利益の請求は、右金額の限度で相当であり、右金額を越える部分は失当である。

(三)  慰藉料

前認定の本件事故の態様、原告中野の傷害の程度、治療期間、後遺障害の程度等諸般の事情を総合考慮すると、原告中野の精神的苦痛を慰藉すべき金額は金一、二〇〇、〇〇〇円とするのが相当である。

したがつて、右原告両名の慰藉料の請求は右の限度で相当であり、右金額を越える部分は失当である。

四、結論

以上の次第で、原告清原幸男、カズ子両名は、本件事故により、各自、前記金額を合計した金二、三一二、二七八円の損害賠償債権を取得したが、右損害の填補として、各自、自賠法による保険金五〇〇、〇〇〇円、前記訴外岩崎および中野泰芳から金一〇五、〇〇〇円を受領したことは、原告らにおいて自認するところであるから、原告清原幸男、カズ子両名の本訴請求は、右金額を控除した金一、七〇七、二七八円およびこれに対する本件事故の翌日である昭和四〇年六月一八日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当として棄却することとする。

原告中野は、本件事故により、前記金額を合計した金三、三五四、九七八円の支払を受けるべきところ、訴外岩崎久から金三三〇、〇〇〇円、訴外中野泰芳から金四二〇、〇〇〇円を受領したことは、原告中野において自認するところであるから、同原告の本訴請求は、これを控除した金二、六〇四、九七八円およびこれに対する本件事故の翌日である昭和四〇年六月一八日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担について民訴法九二条但書、九三条一項但書を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高石博良 阿部功 浜井一夫)

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